小谷野敦 渡部直己 吉本謙次「綿矢りさのしくみ」(太田出版)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4872338782/249-3207994-3961964

 彼女のデビュー当時、某アイドル系サイト掲示板にて「綿矢りさの小説って読んだ方がいいのでしょうか」「読む必要はないと思います」というやり取りを見た時に、「おまえら全員地獄に堕ちろ!!」と憤った覚えがある。彼女の肩書きは小説家であって芸能人でもアイドルでもない。小説買ってもらえなければ生き延びることができないってことがわからんのか。とまあ、女子高生デビューにしてイメージが先行していった彼女であるが、新井素子鷺沢萠も篠原一もこの辺のへんてこなパブリックイメージをすり抜けていったわけであるから、彼女も彼女のやり方で生きていくだろうし、外野が何を言っても詮無いことで。
それはそれとして、パブリックイメージの落とし子がこういう形で本になったりする。

一時期のムーブメントも収束し、当人もおそらくはマイペースに次作品に取り掛かっていると思われるだろう(たぶん)彼女の研究本。かつての謎本テイストで本体にカバーがなく、ペーパーバックというより同人誌のような装丁。表紙と中表紙のイラストが脱力系。

 第一章。綿矢りさと同年代で早稲田大学文学部在籍もしくは卒業の方々にインタビュー。「もしかすると綿矢りさの位置にいたのは彼らかも」と取材者は言ってるが、読んでみると「綿矢りさからいちばん遠い位置にいる人」たちにしか見えない。

 第二章。渡部直己による『蹴りたい背中』評。これを読んで、この人って文章作法を教えるスタイルを取って実は執拗な作品評論という展開だったんだよな。そして俺はそういうところが十数年前から大っっ嫌いだったよな、ということを思い出した。

 第三章。小谷野敦による『蹴りたい背中』評。我田引水型ではあるが笑えるので渡部直己ほど嫌いではない。「十四−十五歳の少年が、二十七歳のタレントの、それほど熱狂的なファンになるかという点について言うと、私自身が、中学三年から高校二年くらいにかけて、二十三−二十四歳だった竹下景子さんの熱狂的なファンで、ほぼ蜷川に近い行動を取っていたから、自信をもって、ある、と言える。」こんな具合。

 他、綿矢りさ小辞典、など。