中野独人『電車男』(新潮社)

 内容についてはもう、今更な感じがするので(sabraがこの本に出てきたアイテムを検証していたのはおもしろかったけど)、この本を巡る販売模様について2つほど書いておく。

 1つ目は、「ネットから出てきたネタを本にして、目立って売れた希有な例」じゃないかということ。ネットで膨大なアクセス数を稼いでいるサイトの内容をいざ本にしてみて、売れたものってほとんど聞かないし。詳しく調べてないけど、確かい〜っぱいあったよね、今までもこういうのは。
 売れない大きな理由として、ネットで読んで内容を知ってるものをわざわざ購入しようと思わないだろうし、ネットを見てない人がそのサイトがどれだけ読む価値があるかわからないし、といった「需要の不一致」があると思う。
 『電車男』の編集者もそれほどネットをやる人じゃないと公言してるし、「この文章は絶対読む価値があるものだ」というアピールがうまかったのだろうな。

 2つ目は「インターネットをやってこんなこと実現した!」というおとぎ話を再び活性化させたこと。90年代後半、一般家庭でのインターネットの急速な浸透と並行して、「インターネットでこんな薔薇色の未来があなたを待ってる」てなトーンで書かれたマニュアルだか啓蒙だかわけわからない本が星の数ほど発刊された。「インターネットのこの部分のここの点がよくわからない」と調べ物するために本を買って、頭から読んでみるとたいてい、この「夢語り」に出くわす。便利になった裏側のマイナス面について言及されることもなく。
 恋愛実録(かどうか評価も分かれているけど)物として、「自分もパートナーができるかも」とモテ願望の人を煽っているが、実体のないネット万能主義が再び蔓延していきそうな気がしている。それはネットをやる人やらない人にかかわらず。