読書感想しりとりリレー2005その9・片岡義男『スローなブギにしてくれ』(角川文庫)

http://d.hatena.ne.jp/harumachi-an/20050701

 橋立様からのお題はこれでした。「。」から始まるタイトルなんてリクエストがありましたが、モー娘。あたりの本のタイトルでありそうかなと思って探してみたけどやっぱりありませんでした。つうか「。」って記号で五十音じゃないし。
 よって「す」から探すことにしました。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041371910/249-8384880-6213114

 片岡義男の角川文庫、というと、1980年代(つまりは昭和50年後半〜60年代)頃には書店の棚に何十冊と並べられた赤い表紙を思い出すものですが、そういう昔話は、かつての角川映画薬師丸ひろ子原田知世が出ていた)を知っている人でないと通じないものになってしまいました。
 とはいえ、当時の角川の社長に比べると片岡義男本人はまったくメディアに登場することはない。一度、月刊カドカワで写真を見たことがあるくらい。

 この『スローなブギにしてくれ』を初めて買ってみて驚きましたが、平成の現在、かつて何十冊と出ていた文庫のほとんど全部が絶版になっているようですね。amazonの商品一覧を見た限りでは、最近の片岡義男の本も、アメリカ文化や日本語を考えるといったお堅い本がほとんどのようで。
 なんというかね、私自身の年代(80年代で小中学生)が実感しているわけではない話ですが、私より一回り上の世代というのが、前述の角川映画のイメージを含めて、片岡義男の作品を「軽い」「スカしてる」と見ていたようです。当時の週刊プレイボーイだったかの青年漫画で、主人公と同じアパートに住む青年が「片岡義男の世界で彼女を口説く」なんとかいう台詞があったと記憶しています。漫画でいったら、わたせせいぞうあたりの位置付けというのか。

 本書は75年に野性時代新人賞を受賞した表題作を含む4編。実は読み始めてみて、表題作からきつかった。バイクと少年と少女と仔猫を巡る物語、と言い切ってしまう以外に深みがないから。清涼飲料水を飲みほしたように、後に残らない感触は見事。いや皮肉で言うんじゃなくて。『ハートブレイクなんて、へっちゃら』ってタイトルの語感も何とも言えないものがあるな。

 改めて文章に触れてみると、会話文を含めて一文ごとの改行が多い、情景描写が説明的、情緒に訴えかけるような独特の表現に乏しいなど、文章にうるさい人だったらいくらでも突っ込んでしまう部分が多いようです。全共闘世代を網羅した活字の威厳など、80年代になってしまえば若者に対して効力がなく、テレビを通じて軽さが持て囃されるようになると、この程度がちょうどよかったのかもしれませんが。

 さて、本書が90年代を超えて21世紀に訴えかけるものがあるのだろうかという気がするが、活字を読む人(『DEATH NOTE』の大量の台詞を普通に読める)と読まない人(よく新聞でネタにされる「日本の若者の国語力が落ちてる」という批判の対象となる、国語力が小学生程度で新聞や雑誌も読まない人)の格差は80年代よりも広がっている。「テキストの清涼飲料水」は昨今の電車男ブームのように形を変えて生き残っているが、かつての若者に支持された(ように見えてあくまでファッションの一環だったかもしれませんが)青春小説は角川文庫の中で天然記念物扱いになっている。

 うーむ、読書感想というより、80年代論の出来損ないテキストになってしまった。ちなみに映画『スローなブギにしてくれ』は観てません。